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シェイクスピア ソネット18番を和歌に訳してみた   

直訳の対極、というか詩を題材にとることで「意」訳すらも超えて、
「情感・美意識の伝達における忠実性と受け手側の文化拘束性との間のジレンマ」
という翻訳上の一大問題(?)を提起するための、
翻訳というよりむしろ翻案に近い、一つの試み。
早い話が西洋の詩は概して日本人には饒舌さがしつこすぎて、
(↑逆に短歌・俳句などは西洋人には説明不足すぎるのでは…)
忠実に訳していたのでは西洋人が感じるような感動を素直に得にくいのかもしれない、
―例えば、現代詩の詩作が一般には広がらず、しばしば「ポエム」と揶揄されるように―
という問題意識のもとにちょっと実験してみた、というわけです。
別段「美しい訳」が作れたとも思いませんが、
とにかく彼我の美意識の差を計測してみたかった、という感じです。

それで、今回の題材↓

Shakespeare Sonnet No.18

Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer's lease hath all too short a date:
Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimm'd;
And every fair from fair sometime declines,
By chance or nature's changing course untrimm'd;
But thy eternal summer shall not fade
Nor lose possession of that fair thou owest;
Nor shall Death brag thou wander'st in his shade,
When in eternal lines to time thou growest:
So long as men can breathe or eyes can see,
So long lives this and this gives life to thee.


(日本語訳は例えば こちら のサイトを参照)

これを試しに和歌に訳してみると、


とこなつと 見しかげさへも うつつには
うつるあとにぞ とはにとどめむ



となりました。いかにも短い!という感じですが、
はじめ思っていたよりはすんなりと訳すことができました。

これを散文になおすと、

「永遠に続く夏の日の光ように輝くとも見えた、愛らしい花のようなあなたの面影も、
 この現世では(日光の強さが季節に従って移ろうように)、やがて衰えてしまう。
 そうなってしまった後であっても、あなたの美しさが永遠に残るように、
 (詩の)筆跡として、わたしがたしかに写しとっておきましょう」

という感じでしょうか。

ソネットを和歌に圧縮するのに使った技法の説明、となると何とも野暮ですが、
一応以下の通り。

・「とこなつ」 : 「常夏」と「常夏の花(なでしこ)」=「撫でし子(愛着のある子)」の掛詞

・「かげ」 : 「日のかげ(日の光)」と「面影」の掛詞

・「うつる」 : 「日の光が移る(変化する)」、「容色が衰える」、「筆跡が写る」の掛詞

・「あと」 : 「後(後世)」と「跡(筆跡)」の掛詞

いくら内容を反映させるためとはいえ、ちょっとやり過ぎたかもしれない(笑)
あと原詩には無かったナデシコの花のイメージが出て来てしまうのもちょっと??
まあ現代では女性的なイメージの強い花ですが、
どうやら一応愛らしい子供(少年含む?)の形容にも使えるようなので、
詩の世界と根本的にズレるという訳でもなさそうではあります。

あと「うつつ」と「うつる」の類似、それから「とはにとどめむ」の「と」の連続は
一応音の調子の面白さも狙っています。効果はどんなものでしょうね。

by bulbulesahar | 2014-08-28 18:46 |

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