人気ブログランキング | 話題のタグを見る

うちなあぐち文法提要 第一章 ―音韻-   

沖縄語解読ツール!というつもりで始めた企画。
(まあ沖縄語の文章ってあまりないけどね、それから本提要で扱うのは、
 日本語族琉球語群沖縄語中南部方言のうちの首里・那覇方言ということになります。
 ネイティヴではないこともあり、どうしても学習しやすい、共通語に押されているとはいえ、
 沖縄県内の「方言」ではまだいくらか覇権を握っている言葉に選ばざるをえないですね…
 もっと切羽詰まった状態にある言葉もどうにかしないといけないのだろうけれど、
 一体21世紀になって例えば本式の与那国語を話せる人はまだ存在しているのだろうか)

本格的に学習するなら、書籍や「うちなあぐち世」というとても立派なサイトもありますが、
(それから音声資料は、まずは沖縄方言ニュース(ネットで聴ける)がある)
「基本的な文法を簡単に習得・おさらいできるメモ」ということで。
本土方言を母語とする人が、沖縄語で会話・作文するときに参考になるように、
日本共通語との比較対照に重点を置いています。
(語彙は、「首里・那覇方言音声データベース」や市販の辞書を参照してね)

※参考文献(というか勉強に用いた本)
・西岡敏・仲原穣『沖縄語の入門』白水社
・吉屋松金『実践うちなあぐち教本』南謡出版
・内間直仁・野原三義編『沖縄語辞典 那覇方言を中心に』研究社
・亀井孝ほか編『言語学大辞典セレクション 日本列島の言語』三省堂
 所収の「琉球列島の言語」

  ※本提要については、ソース(本ブログ)を明らかにしないままに
    転載・リンクしないようお願いいたします。
 
  


第一章 -音韻―

第一節 -特徴的な音韻対応-

共通語→沖縄語の順 

① e→i, o→u (これは有名、te, to, de, do→ti, tu, di, duに注意!)
② ai, ae →ee(母音重ねは長母音を表すことにします), au, ao→oo
③ oo(音読みの「おう」)→uu(歴史的仮名遣いでeu,ou), oo(同じくau)
④ awa→aa
⑤ ki→ci「ち」,ri→i
  (①④⑤を適用すると「沖縄」okinawa→uchinaa, ②③⑤で「兄弟」kyoodai→coodee)
  (また「余り」amari →amai,「踊り」(w)odor i→wudui,「帰り道」kaerimici →keeimici)
⑥ su →shi「し」, zu →ji「じ」, tsu →ci, はよくある。
   (「墨」sumi →simi, 「水」 mizu →miji,  「月」tsuki →cici)
※かつての士族の男子はsi, zi, tsi と発音していたらしいが、ほぼ失われている。
⑦ mとnは入れ替わることがある。「宮古」miyako→naaku, 「新」nii →mii



第二節 ―沖縄語では弁別を(あまり)しない音―

①d とr は常に混同されやすい、中間的な音も聞かれる。
②see, zee はshee, jee と発音されることが結構ある。


第三節 ―共通語にはない、または区別しない音韻―

①子音kと子音kw「くゎ、くぃetc.」, およびgとgwは区別する。

②促音で始まる単語が少数ある。kkwa「っくゎ(子)」ccu「っちゅ(人)」

③声門破裂音←発音方法はwikipedia参照のこと
この文法提要では声門破裂音は、発音記号としては「?」で表します。
この音は常に単語の一番初め(複合語では途中もある)に出現。
現れるパターンは以下の通り、(ひらがな表記は完全に決まってないので、一試案を載せます)

・共通語の「ア行」に対応する音節 a, i, u, e, o →?a, ?i, ?u (あ,い,う)
(長母音では ?aa, ?ii, ?uu, ?ee, ?ooが可能(ああ,いい,うう,ええ,おお)
 ※この音に関しては日本人は特に意識しなくても出来ていることが多いので気にしなくてよい。


・気をつけるべき音節、共通語では混同してしまう音節のペア

(以下の例は、対応する長音も可能、《 》で囲ってある例は稀少例)


ya「や」⇔?ya「いゃ」, yi「いぃ」⇔?i「い」, 《yu「ゆ」⇔?yu「いゅ」》

ex. yaa「家」⇔ ?yaa「汝・君」 yin「縁」⇔ ?in「犬」
    yiyun「座る」「酔う」⇔ yiiyun「得る」⇔ ?iyun「入る」「射る」⇔ ?yun「言う」

wa「わ」⇔?wa「うゎ」, wi「ゐ」⇔?wi「うぃ」, wu「をぅ」⇔?u「う」,

《we「ゑ」⇔?we「うぇ」》

ex. waa「我の」⇔ ?waa「豚」  wii「酔い」「柄」⇔ ?wii「上」
    wutu「夫」⇔ utu「音」   ?wencu「ねずみ」

n「ん」⇔?n, ?m「んぅ」 (←「っん」と書く例が多く、そのほうが発音の実感にも近いが
             それだと文章中では促音と紛らわしいため)


沖縄語では「ん」「んぅ」から始まる単語があります。
だいたい、「ん」は共通語のナ行・マ行から始まる単語、「んぅ」はア行から始まる単語です。
ex.「胸」mune→nni, 「皆」 mina→nna, 「稲」 ine→?nni, 「芋」 imo→?mmu,




長母音には音引きは用いず「ああ、いい、うう、ええ、おお」と表記します。
これは 「うちなあぐち世」の比嘉清さんの方針でもありますが、
端的には、沖縄語においては母音の長短は、
共通語よりもずっと意味の区別に重要だということがあるからです。

by bulbulesahar | 2011-06-19 04:08 | ウチナーグチ(沖縄語)

<< うちなあぐち文法提要 第二章 ... 方言と言語の境界―再び >>