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うちなあぐち文法提要第三章A.動詞編第一節「概要+語幹」   

第三章 ―用言―

A.【動詞編】

第一節 -動詞活用の概要-
 ※沖縄語の動詞活用の複雑さは学習の一番の山であり、ここで挫折する人も多そうです。
  本提要では、丸暗記をできるだけ減らすために、その複雑さの中の原理をできるだけ
  明らかにしようと試みます。
  活用表を一望のもとに見たいというひとは、「うちなあぐち世」のウェブサイトの
  「うちなあぐち賛歌」のコーナーに掲載されていたと思いますので、
  それを見ていただければよいのではないかと思います。

(a)動詞活用の比較

・日本共通語の動詞活用:五段活用・上下一段活用・不規則活用(カ変・サ変)の区別が重要。
            反面活用行(カ行・サ行etc.)は活用形に本質的な差異をもたらさない。
            ex. 未然・連用…の順に列挙
            五段 a i u u e e
           上一段 i i iru iru ire iro
           下一段 e e eru eru ere ero
           
           語幹末の子音に以上の母音を後続させるだけで何も問題は生じない。
           連用形の音便は多少複雑だが、なお後続接辞とは明確に区別できる。

・沖縄語の動詞活用:少数の不規則活用も含めほぼ全ての動詞が四段活用に収斂している。
          一方で、連用形において口蓋化などによって語幹末子音が変化している。
          そのために「何行活用」かによって連用形が多少変則的に活用する。
          動詞活用の行が何行なのかは、基本語幹末の子音によって決まる。
          基本語幹は、未然形(否定形・志向形などに使われる形)から、
          活用語尾aを除いて作ることができる。

          ※例えばkacun「かちゅん(書く、終止形)」の場合には、
          否定形はkakan「かかん」であり未然形はkaka,
          従って基本語幹はkak- ということになる。従ってカ行活用。
          
          
          さて、沖縄語の「基本語幹」を基軸とした四段活用は以下の通り。

          「未然」、「連用」、「禁止」、「已然・命令形」の順に
            a,  'i,  u,  i
          ('iの ' は先行子音の音変化を示し k,t→c, g,d→j, r→ゼロ, に子音を変える)

          そして、終止形・連体形などの活用形は「連用形の語幹」から派生する。

          ※再びkacunを例とすると、連用語幹はk→cの法則からkac-,
          よって連用形はkaci, そしてそこから派生する終止形はkacunとなる。
          

          また連用形の音便化も共通語よりも進展し、後続接辞と融合しているので、
          これを別個に「音便語幹」として扱う必要が出てくる。
          
          ※共通語では過去形は、連用形+た=「書きた」にイ音便を適用して
          「書いた」が導出されるが、対応する形である沖縄語の直接過去形は、
          kacan「かちゃん」となり、連用形末尾と直接過去接辞の語頭が完全に融合。
          従って音便語幹kac-を設定しなければならない。           

          また、共通語では後続する接辞の違いとして活用形扱いされないものが、
          沖縄語では、「融合」のために変化形として挙げざるをえなくなっている。

          ともかく、沖縄語の動詞活用においては、
          
         ・「基本語幹」「連用語幹」「音便語幹」の三段構えで考えること
         ・活用が「何行活用」なのかを常に意識すること
           (辞書に載る形の「終止形」は「基本語幹」ではないので要注意!)

          以上の2点が肝要です。

(b) 共通語の動詞との対応関係、そして沖縄語には何行活用があるのか。

さて、次は「基本語幹」から「連用語幹」「音便語幹」をどう導き出すかを問題にしたいのですが、
その前に少々クリアすべき問題があるので、お付き合いください。

学習するときに動詞を覚える場合、「終止形」の形で記憶していくことになると思います。
(辞書に載っている形という意味でも、印象に残りやすいでしょうし)
しかしこの終止形、基本語幹ではなく、連用語幹から派生しているので、
それだけでは活用の行が判明しません。
勿論辞書などでいちいち未然形を確認すればよいのですが、
明らかに共通語と同源の言葉まで確認するのは多少面倒なので、
共通語と沖縄語の動詞の活用面での対応関係を少し見ておきましょうという話です。
それは沖縄語の動詞にはどの行の活用が存在するのかという話とも関わってきます。

①沖縄語の動詞の活用の行
 ・以下が存在する。(上述のとおり四段活用しか存在しない)

  「カ行」「サ行」「タ行」「ナ行」「マ行」「イャ行」「ラ行」「ガ行」「ダ行」「バ行」

   ※但し「ナ行」は「しぬん(死ぬ)」、「イャ行は「いゅん/いいん(言う)」のみ。
    (「いゅん」はラ行も可。その場合も連用語幹・音便語幹は以下に紹介のとおり)

   各行に関して「未然」「連用」「禁止」「已然・命令」= a, 'i, u, i と規則的に活用する。
    (連用語幹形成に関しては基本語幹末子音のk,t→c, g,d→j, r→ゼロ, の法則に留意)

②共通語との対応関係
 ・共通語の上下一段活用→ラ行活用へ
   ex.「起きる」→「うきゆん/いん(基本語幹?ukir- )」否定形「うきらん」
     「考える」→「かんげえゆん/いん(基本語幹kangeer- )」否定形「かんげえらん」

 ・共通語のワ行五段活用→ラ行活用へ
   ex. 「歌う」→「うたゆん/いん(基本語幹?utar-) 」否定形「うたらん」

・共通語で「むる」「ぶる」で終わるラ行五段活用の一部→ダ行活用へ
   ex. 「眠る」→「にんじゅん(基本語幹nind- )」否定形「にんだん」
      「被る」→「かんじゅん(基本語幹kand- )」否定形「かんだん」

 ・上述以外の五段活用は、沖縄語でも原則として同じ行の活用になります。


(c) 基本語幹からの、連用語幹・音便語幹の導出のしかた(規則動詞の場合)

①連用語幹の導出:何度も述べたとおり、k,t→c, g,d→j, r→ゼロ,の法則を適用すればOKです。
 
ex. カ行「あっちゅん(歩く・働きに出る)」基本語幹akk- → 連用語幹acc- ,連用形「あっち」
   タ行「まちゅん(待つ)」基本語幹mat- →連用語幹mac- ,連用形「まち」
   ガ行「うぃいじゅん(泳ぐ)」基本語幹?wiig- →連用語幹?wiij- ,連用形「うぃいじ」
   ダ行「やんじゅん(破る)」基本語幹yand- →連用語幹yanj- ,連用形「やんじ」
   ラ行「こおゆん/いん(買う)」基本語幹koor- →連用語幹kooi- , 連用形「こおい」

 それ以外の行では基本語幹=連用語幹になります。
 
 ex. サ行「まあすん(亡くなる・回す)」基本・連用語幹maas- ,連用形「まあし」
     (連用形maashiですが、已然・命令形も同形なので連用語幹による口蓋化ではない)
   マ行「ゆむん(読む)」基本・連用語幹yum- ,連用形「ゆみ」
   バ行「とぅぶん(飛ぶ)」基本・連用語幹tub- , 連用形「とぅび」


②音便語幹の導出:沖縄語の歴史的発展から見れば必ずしも正しい説明では
 ないかもしれませんが、「覚えるコツ」を出来る限り示そうと思います。
 例示する動詞は基本的に上の連用語幹の説明に用いたものにします。

・カ行・サ行:k, s→c  
 ex. 「歩っちゅん」基本語幹akk- →音便語幹acc- ,直接過去形「あっちゃん」(以下同様)
   「亡あすん」maas- →maac- ,「まあちゃん」

 kaki-ta →kaita とイ音便した後にi が後続子音を口蓋化させた後に消滅したか。
 サ行は共通語では音便しないが 鹿児島方言ではイ音便を起こすので、
 同様にmawashi-ta→maaita→maac- という経過をたどったように思える。
  (※考え直してみると、i 母音脱落の後に子音が同化したとみたほうがよいかもしれない。追記)


・ガ行:g → j  
ex. 「泳いじゅん」?wiig- →?wiij- ,「うぃいじゃん」

 カ行のケースの濁音バージョン。


・タ行:t → cc   
 ex. 「待ちゅん」mat- →macc ,「まっちゃん」

 maci-ta からi が脱落、子音同化によって促音化したようだ(macta→macc- )。


・ナ行:n → j    
ex. 「死ぬん」shin- → shij- 「しじゃん」

 shini-ta→shinda(撥音便)からn の脱落(前鼻音化の逆の過程?)、
 その後隣接したi の影響で口蓋化d→jか?一語だけなので覚えて下さい。

・マ行・バ行:m, b → d   
ex. 「読むん」yum- → yud-「ゆだん」
    「飛ぶん」tub- → tud-「とぅだん」

 撥音便からのn 脱落 (yumi-ta, tubi-ta → yunda, tunda → yud-, tud- )

・イャ行:y → c  
ex. 「言ゅん」?y(i)- → ?ic- 「いちゃん」

 ihita→iuta(ウ音便)→ita(ウの脱落orイと同化、その後口蓋化?)
 一語だけなので覚えてください。

・ラ行:r → t, c, cc   
ex. (I)「買おゆん/いん」koor- → koot- 「こおたん」
  (IA)「入りゆん/いん」irir- → itt- 「いったん(入れた)」
  (II)「着ゆん/いん」cir- → cic-「ちちゃん」
  (III)「切ゆん/いん」cir- → cicc- 「ちっちゃん」

  (I)が大部分を占める。古典日本語のハ行四段(共通語ではワ行五段)由来の全て?、
  ラ行四段由来の動詞の殆ど、および上下二段動詞由来の動詞の全て?
  (口蓋化しないのは四段動詞からの類推?)が該当。
     toru:tori-ta → totta → tut- , kahu:kahi-ta → kauta → koot-

  (IA)「…りゆん/いん」型の動詞の多くはこの形 ( irit- → irt- → itt- )
    受動・可能助動詞「(未然形)-りゆん/いん」のこのパターン。
     ※未然形で基本語幹から-ir-が脱落することが多いことに要注意。
      ex.kaka-riyun/in(書かれる)→(kaka-riran) →kakaran(書かれない)

  (II)の例は少ない。古典日本語の上一段動詞の一部が該当か?(「煮る」「似る」「居る」)

  (III)は古典日本語ラ行四段動詞のうち終止形-iru, -suru, -tsuruのもの+「射る」「干る」?


・ダ行:d → t   
ex. 「破じゅん」yand- →yant- 「やんたん」

 終止形yamburu(元来前鼻音化していた?)→ yandu(bu脱落、r→d)
 過去形yandi-ta → yantta → yant-


以上なかなか大変でしたが、これで音便語幹の導出が終わりました。
次からは、いよいよ語幹から活用形を展開していきます。
  

by bulbulesahar | 2011-06-19 23:56 | ウチナーグチ(沖縄語)

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